おっさん語録/いいさ〜。/「美」術というものは存在するのだろうか。原山尚久 随筆 長野 2004発行
目次
ボケる
男五十歳をすぎるころボケがやってくる。
四十年ぶりかで集まった中学の同級会で、
定年を翌年にひかえた男が言った。
退職したらなにをやって生きて行こうかなぁ。
そのてんおっさんは、貴方、ずうっと自由業。
うらやましい。
もちろん定年後はボケる。
生涯現役は残される者たちのために年金ないからというんで自決したりして(笑)。
だから自由業にはどこかしらジャイナ教の雰囲気が漂う。
自由と言ったって、アイデアを出そうと呻吟したり、
昼にはじめた仕事が夜中になっていたり、
自分の頭の蝿を追うこともせず、食事も忘れてしまう。
古代インドのジャイナ教の道場は、食事を忘れた行者の屍が累々ところがっていたとか。
いずれそうなるとしても、
うらやましがられても嬉しくもない。
定年とかになる連中は、その後も子会社に
天下りして小金を溜める。
年金が人生が終わるそのときまで面倒みてくれる。
ところが自由業、
ぼくの時間は原則としてお客様のもの。
一週間に1〜2度は銀行へいって残高をしらべ、
悲壮感に陥ったり、そっと胸をなでおろしたり、
時によって覚悟をしたり・・・。
何に対するどんな覚悟なのか、わけがわからなくなって悩みは中庸のポイントに置いて、
とりあえずなにもなかったことにするけれど、
よく考えればこれがいわゆる
「ボケ」
なのかもしれないと考えてはっとする。
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